以前に私が過敏性腸症候群(疑い)になったきっかけのお話をしました。
今回はその続編となる【高速バス みちのく号編】です。
当時、岩手県盛岡市に住んでいた私は、実家である秋田県大館市に帰省するのに「みちのく号」という盛岡市⇔大館市間を走行する高速バスを利用していました。
電車で帰るより時間もお金もかからず、だいたい一時間間隔でバスが出るため利用者もかなり多く、お盆やお正月は臨時バスがでるほどです。
お盆に帰省する予定があった私は、バスの時間まで盛岡駅でお土産を買い、時間つぶしにラーメンを食べることに。いつの間にかのんびりしていたらしく、気づくと出発時間ギリギリでした。
田舎者の悪い癖です。
慌てて乗車券を買い、なんとか無事に予定のバスに乗る事が出来ました。
この日も乗車率はかなり高く席は満席。私の隣にはイヤホンで音楽を聴いてる20歳くらいの金髪男子がすでに座っていました。
(見た目はやんちゃだけどお盆に実家に帰るなんて親孝行の出来るしっかりした若者だな。同郷者とし頼もしいぞ、日本を頼む)
そして出発のアナウンスが流れてバスが発車したその時、余計なことを考えてしまいました。
(あ。トイレ行くの忘れてた)
引き金
私が降りるバス停までは約2時間ほどかかります。トイレなどの休憩時間でバスが停車するのは約1時間後の田山PA。
(もし途中で行きたくなったらどうしよう、、、どうしよー!!)
この不安がトリガーとなり、最悪のタイミングでアレが始まりました。
しかも今回は第一波からデカい!
とりあえずお腹に負担をかけないようにシートに浅く座り、体を寝ている状態に近い体勢にしてみました。
さっき食べたラーメンが腸に進む速度を少しでも遅らせる効果も期待出来るのでは?
(のでは?とか悠長にしてる場合じゃない。もう限界が!降りよう!たしか高速に入る前に前潟イオンモールのバス停で乗車のために停まるはず)
車内アナウンス「まもなく前潟イオンモール前です。前潟イオンモール前は乗車専用のため降車は出来ません」
くっ!みちのく号に見抜かれた!
でも、運転手さんに事情を話せば降りれるかもしれない。勇気がいるし恥ずかしいけど、ここで降りなきゃ恥ずかしいじゃ済まない事態になる。頑張れ自分!!
車内アナウンス「当バスはまもなく高速道路に入ります。シートベルトを・・・・」
私は子供の頃から人見知りで引っ込み思案で、親戚や近所の人とも上手く話すことが出来ませんでした。本当はもっと積極的に話しかけたり大きな声で挨拶したいのに自分でブレーキかけちゃうんですよね。そして後になって後悔して、次こそは!と心では思っていてもやっぱり同じことを繰り返してしまう。
道
かなりまずい状況になりました。高速道路に入ってしまいました。
ちょっとね、私の座っているところが後方過ぎたね。運転席の近くだったら言えたと思うんですよ。ササっと運転手さんのとこ行ってコソコソっと話してパパっと降りるという。
でも、あまりにも運転手さんと私の距離が遠いからある不安が頭をよぎったんです。
(運転席までたどり着かないかもしれない)
もし立ち上がった瞬間に出てしまったら、そこから運転席までの道はどんな道でしょう?アントニオ猪木は行けば分かるさって言うけど、行かなくても分かる道が私にはある。20歳半ば。一生の記憶に残したいのは憧れのバージンロードであって脱糞ロードではない。3、2、1、だー!!ってうんこ漏らしても笑ってくれる乗客はこのバスにはいないだろう。その責任は猪木にある。
私は喜多方での経験をもとに、まずは忘れることにしました。
何度でも
(音楽を聴いて違うことを考えよう!意識を他に持っていけば腹痛もうんこも私からいなくなるはず。ドリカムを聞きながら今日の実家ご飯の予想をたてよう)
こみ上げてくる涙を 何回拭いたら
伝えたい言葉は 届くだろう?
誰かや何かに怒っても
出口はないなら
(あれ?これ、今の私の状況じゃね?)
口にする度 本当に伝えたい言葉は
ぽろぽろとこぼれて 逃げていく
悲しみに支配させて ただ
潰されるのなら
(私と過敏性腸症候群との戦いの歌だ!)
もう頭の中はトイレに行きたい気持ちでいっぱいです。喜多方の時は細かい波があって苦痛の後には少し楽になったりしたんですが、今回の第一波は長い。全然引く気配がない。攻め一択。まさに何度でも。
(実家ご飯はもう生米と落ち葉とか何でもいいからこの苦痛を何とかしてほしい。
お盆だっていうのに私の祖先や守護霊は何してんだよ。守ってくれなきゃ墓参りしねーぞ。まだあの世か?のんびり屋!
あ!私ものんびり屋だった。そもそものんびりしたせいでトイレ行く時間なくてこんな目にあってたんだった。どんまいどんまい)
とかなんとか考えているうちにパーキングの看板が見えました。
運転手さん
停車するパーキングではないのですが、運転手さんに頼んだら何とかなるかもしれません。幸い今はピーク時よりは少しマシな状況。肛門に全神経を注いでソソソソっと行けばトイレまで我慢できそうな気もします。
(勇気を出して運転手さんに「申し訳ないのですが体調が悪いので次のパーキングで停めて頂けないでしょうか?」ってお願いしよう。この一言ですべてが解決する!)
前を向いて しがみついて
胸かきむしって あきらめないで 叫べ!
(ドリカムの後押し!頑張れ自分!行けーーーー!)
運転手さんがね。追い越し車線をガンガン飛ばしているんですよ。風になってると言っても過言じゃない。運転手さんもトイレに行きたいのか?だとしたら同志なんだから仲良く一緒にさっきのパーキングに行きたかった。頑なに田山PAにこだわらなくてもいいのに。
もしくはこのバスには爆弾が仕掛けられていて時速80㎞をきると爆発するのか?
いや、キアヌ・リーヴスは岩手の山には助けに来ない。来てほしいけど。
なんなら私がサンドラ・ブロックに代わってバスを運転したっていい。無免許だけど。
ラッシュ
何にせよ、私は最初で最後のチャンスだったかもしれないタイミングを逃しました。
言う気持ちは本当にあったんですよ。貴重品持って中腰になるとこまでは出来たんですけど、一歩が踏み出せなかった。声が全然出る気がしない。
どうして分からないんだ?伝わらないんだ?
喘ぎ嘆きながら 自分と戦ってみるよ
10000回だめで 望みなくなっても
10001回目は 来る
そう。まだチャンスは来る!中腰になったのが良かったのか腹痛が和らいできて、このバスのスピードなら田山PAに予定よりも早く着くかもしれないという期待も高まります。今回も無事にこの戦いに勝てる!
(??あれ?)
心なしかバスのスピードが落ちてきているような、、、
もしかして田山PAが近いから登板車線に車線変更したのかも)
いや、完全に停まりました。停車。
周りの人が窓の外を見ているので私ものぞいてみました。
帰省ラッシュ!
(まずい、このタイミングでアレが始まったら、、、。ダメだ!考えるな!考えるな!不安がトリガーなんだから。違うことを考えなきゃ!そうだ、隣の金髪の男子は何の曲を聴いてるんだう?発車してからずっと遠くを見つめているな・・・・・・・・・・・・・どうでもいい!!トイレ行きたい!)
許されるウソ
人は考えないようにしようとすればするほど考えてしまう生き物です。
そして第二波到来。
さっきまでバスを停めることばかり考えていたのに、今はバスに動いてほしいなんて。私はワガママな末っ子です。
状況は最悪。喜多方の時と違って今回は自分の力じゃどうすることも出来ません。
(もう、バスを降りて歩いてパーキングまで行きたい。なんなら高速道路から出たい。隣の金髪男子に「探さないでください」と言付けして窓から消えたい)
頭もお腹もグルグルで冷や汗ダラダラな状況の中、名案を思い付きました。
「妊婦のふりをしよう」
妊婦のふりというのは、女という立場を利用し、尚且つ命を軽んじる決して許されることのない最低のウソです。
しかし、逆を言えば女にこそ許されたウソでもあります。
好きな人の気持ちを確かめたかったり、相手と自分を繋ぎとめるためにこのウソをついたことのある人も結構いるんじゃないでしょうか。
そんな愛を確かめるための一世一代のウソを、私は過敏性腸症候群のために使おうと決心しました。
私の人生において、このウソの出番は今しかないでしょう。今思えば他に方法があるだろと思いますが、極限状態のためご容赦下さい。
作戦
私の考えた作戦はこうです
1 つわりのふりをして隣の金髪男子にアピールする
2 金「大丈夫ですか?」私「妊娠中で・・・吐きそうで・・」
3 金「(あたふた)」周りがざわめく
4 運転手さんに私が妊婦であり、体調が悪いことが伝わる
5 私「外で休憩したいので近くのパーキングにお願いできますか?」
6 全員一致で賛同
これです。妊婦のお願いを蹴る人はこの世にいないのです。
こんな大掛かりなウソをつくのも演技をするのも人生初で緊張しますが、肛門はずっと緊張状態だったので大丈夫!(何が?)
女優とモンスター
まずはやたらと水を飲むことから始めました。
急に「うっっっ・・」とか言ってもウソくさいですからね。ウソだけど。
金髪男子はこちらをチラッと見ましたが、特に何か行動に移す様子はありません。まあ、まだ水を飲んだだけですからね。焦らない焦らない。
続いて口元を手で覆い、息を荒くしてお腹をさすってみました。
金髪男子は異変には気付いたみたいで、こちらの様子を見ている気配があります。
気持ち大袈裟に演技してみることにしました。
金髪男子は様子を見ている
私「うっ!」
金髪男子は様子を見ている。
私「どうしよう・・・」
きんぱつだんしは ようすを みている
(いや、ばくだん岩か!)
ドラクエのばくだん岩を思い出しました。
あいつHP減るまでじっとこちらの様子を見て、急にメガンテ使ってくるんですよね。仲間になりたいのかと思ってたらメガンテで全滅した記憶があるので、そのことを思い出しました。
(メガンテ使われる前に逃げるか・・・)
車内アナウンス「まもなく田山パーキングエリアです。田山パーキングエリアでは5分間の休憩をします」
ばくだん岩も人見知り
田山PAに着きました。実は作戦を熟考してる時、バスがスイスイ進み出したんですよ。金髪男子との攻防中には元のスピードに戻っていたので、数分でパーキングに着くことは分かってました。逃げる必要もなし。
なのになぜ作戦を実行したかというと、、、、、女の意地?
隣で苦しんでいる女を放っておくような男にはなってほしくなかった。積極的に声を掛けて助けようとする、そんな姿勢を見たかった。私を踏み台に成長するんだ!金髪男子!っていう。
まあ、結果ばくだん岩になったわけですが。
お腹の痛みはほぼなくなっていたんですけど、一応トイレは済ませました。席に戻った後は爆睡こき、気付いたら降りるバス停の近くです。
金髪男子は窓の外を見ていました。
(思う存分に反省しなさい。後悔しなさい。お前はもっとレベルアップできる)
そしてバスを降りたら、金髪男子も同じバス停で降り、電話をかけています。
金「ごめん。バス停降り過ごした。迎えに来て」
え???
まさか私が爆睡して起きなかったから降りられなかった??
私は「ごめんなさい!もしかして私が寝ていたせいで降りられなかったんじゃ?」って言葉を喉に詰まらせたまま実家へと帰りました。
10001回目
結局、何一つ自分の言葉を人に伝えることが出来ず、さらには人に迷惑までかけて謝ることさえしない。
激しく反省と後悔をした私は、実家できりたんぽ鍋をいっぱい食べました。お酒もいっぱい飲みました。美味しかったです。
きりたんぽ鍋をつまみにお酒を飲める歳になったのに引っ込み思案は全然成長していません。
盛岡に戻ったら人とたくさん話そう。嫌われてもいいから自分の意見を話そう。「ごめんなさい」「ありがとう」は多めに使おう。
そうしたら自分に自信がついて、いらない不安もなくなり、過敏性腸症候群も治るかもしれない!
そう決心したみちのく号での帰省話でした。
私と同じ悩みを抱えている方、すぐには無理でも何回でも努力してみましょう。
私はわりと今の自分が好きです。きっと変われますよ。
明日がその10001回目かも しれない
おしまい