私は子供の頃から異常なほど健康です。風邪をひくのも稀で、クラス中が風邪で休むなか、登校するのは私と年中半袖のケンタ君とあと数人。
中学生になると風邪すらひかなくなり、大人になってからは健康のありがたさを再認識させるかのように4年に1回熱が出ます。
予防接種はもちろん、手洗いうがいもしてないのにインフルエンザにかかったことはないですし、花粉症や食物アレルギーもなし。
身内や職場の人から感染症をもらったこともなければ、あげたこともなし。
私の体内には学会で発表されるレベルの抗体がある!と、自分の免疫力にかなりの自信があます。治癒力も相当で、高熱はポカリ、胃痛などはマンガ読んでれば治ります。解熱剤や鎮痛剤を飲むと「お前らの力なんぞ借りねえ!この身体から今すぐ出ていけ!」と言わんばかりに大量の鼻水を放出させます。あと爆発的なくしゃみ。
身体の持ち主としては薬でサクッと治したいので、余計な副作用で内側から支配しないでほしいです。
40年生きてきましたが、入院も通院もなく骨が折れたこともヒビが入ったこともなく、唯一の手術は下唇の内側に出来たイボの切除。
健康で丈夫な身体はうれしいけど、病弱女子や校長先生の話で倒れる貧血女子への憧れもあります。たまには心配される側になりたい。
過敏性腸症候群
そんな健康という名をほしいままにしてきた私ですが、唯一の長年の悩みが過敏性腸症候群(疑い)。診察してもらったわけではないのではっきりとは言い切れませんが、おそらく、いや、ほぼほぼそうだと言っていい。
過敏性腸症候群とは、精神的なストレスが原因でおこる下痢や便秘などの便通異常です。
このストレス社会ですからね、同じ病気で悩んでいる方も多いと思います。
でも私のストレスの原因は社会ではありません。
私は精神面も丈夫なようで、大体の悩みは一晩寝ればどうでもよくなります。
以前、職場の酒の席で「私この子嫌ーい」と指さして言われたことがあるのですが、(こちらこそでーす)としか思いませんでした。
傷つくことも怒ることもなく、ただただ日本酒の美味しさに幸せを感じていました。
良く言えば楽観的、悪く言えば無機質。そんな私です。
私の便通を乱す原因は長距離移動
長距離移動こそが一番の恐怖なのです。
マスオと喜多方へ
15年ほど前のこと。友達(以下マスオ)と「ラーメン食べに行こう」と福島県の喜多方市へと車で向かいました。最短ルートだと2時間半くらいで着くのですが、なんかのノリで「郡山からは下道で行こう」となり、朝早く出発することに。
私は朝が大の苦手で、目が覚めてから1時間くらいボーっとしないと体が機能しません。そんなボーっと時間にマスオが予定より早く迎えに来たため、舌打ちしながらバタバタと準備をして体が機能する前に家を出ました。
これが良くなかったらしく、高速にのってすぐお腹が痛くなりました。
(やばい、早めに手を打たなければ、、、)とマスオに「うんこしたいからトイレ」とお願いしました。
でもいざパーキングが近くなるとお腹の痛みがなくなりパーキングをスルー。しかし、通り過ぎたとたんにまたしても痛みが。
私「やっぱりトイレ!」
マ「了解」
私「あ、治ったからいいや」
マ「了解」
私「やばい!今回こそ寄って」
マ「大丈夫か?」
私「治った。スルーで]
マ「・・・」
私「出る出る出る!」
マ「・・・」
私「完璧治った」
というやりとりを繰り返しつつ郡山に到着。高速を降りて一般道へ。
第一波
一般道はトイレの宝庫。コンビニや飲食店、パチンコ店などよりどりみどりで、「行きたくなったらいつでも行けるから限界まで我慢してマスオのご機嫌をとろう」とお腹が気になりつつも車内の空気の暖めに専念することに。
次第に道幅はせまくなり、周りは田園風景。
「まずい、、、」
嫌な予感は当たるもので、このタイミングで腹痛が始まりました。しかも今日一の。周りにはトイレどころか建物もなく、地の果てまでたどり着きそうな一本道のみ。ラーメン屋さんまでの到着予定時間はまだ1時間半くらいある。
私「すみません、始まりました。トイレよろしく」
マ「ねーよ」
ナビによると少し先にコンビニがあるらしい。
私「ここ!このコンビニ!」
マ「はいはい」
私は全筋力を肛門に使い、とは言えそのことばかり考えると腹痛が増しそうなので頭は無にするという身にならない技を繰り出すことでコンビニまで耐えることにしました。
冷や汗ダラダラ、のどがカラカラになったところでコンビニが視界に!
不穏な空気
私「あそこです!運転手さん!」
マ「はいはい」
助かった!耐えた、頑張った。ありがとうローソン!ありがとうこの場所にローソンを建ててくれた施工会社さん!みんな大好、、、、
「ブーン、、、(通過)」
マスオ、コンビニ通過しやがった。
私「てめえ!どういうつもりだよ!戻れ!ここでもらしてやろうか!」
マ(爆笑)
こいつ、気でも触れたか?どこで楽しくなってんだよ。
そうだ。「はい」を2回繰り返す返事は信用してはいけない。
怒りで腹痛が少しやわらぎ、私は無言でタバコを吸いだした。窓は開けない。この車をヤニだらけにしてやる。
マ「ごめんごめん。ほら、またコンビニあるから」
私「次同じ事したら覚えてろ」
まあ、もっと早くにトイレ行かなかった私も悪いし。運転してもらってるし、反省してるみたいだし、今回のことは水に流してやろう。トイレだけに。ふふふ。
予感
さあ、コンビニだ。正直、今はトイレ行かなくても大丈夫だけど、この先またトイレがあるかわからないから一応行くか。ついでに飲み物買って、マスオの野郎にもタバコ買ってやる、、、、
「ブーン、、、(通過)」
殴りました。
私「お前を親ごと泣かせてやりたい」
マ(爆笑)
お腹が弱い人は分かると思いますが、腹痛には波があります。
それは津波のように、迫ってきては引いていき、また迫ってきては引いていく。
そして強い引きの後は凄まじい勢いで迫ってくるものなのです。
ここまで幾度も腹痛の波を乗り越えてきたわけですが、感覚で分かるんです。
次に来る波はかなりでかい。
第二波
備えなければいけない。備えあれば患いなし。
まずは、トイレの代わりになりそうな物を探しました。ペットボトル、ビニール袋、ティッシュ、タオル、スコップ。
いける。
そして波がきました。かなりのビッグウェーブ。ナビを見たところ近くにコンビニはない。
私「後部座席お借りします」
マ「え?待て!マジの方?」
マスオ、私は最初からマジだったんだよ。でもあんたは悪くない。私の普段の行いが悪かったんだよ。
そしてシートベルトを外して後部座席に移動しようとした時、、、
マ「パチンコ屋だ!」
え!パチンコ屋さん!?そんなアミューズメントパークがこんな田んぼのど真ん中に、、、、ある!確かにある!いらっしゃるー!!
しかもパチンコ屋さんのトイレは広いから人を待たせることもないし、多少なら長居しても怒られない。
外装の電飾は全部ついてないし、聞いたことない店名で、車も数台しかないけど、この時の私にはシンデレラ城のように輝いて見えました。
伝わらない思い
やっと助かる。今までの苦労が報われる。この地獄から脱出して食べる喜多方ラーメンはさぞ美味しいことだろう。そうだ、実家にも送ろう。きっと喜んでくれ、、、
「ブーン、、、(通過)」
バックミラーをぶん殴りました。もう、破壊しなきゃこの車は止まらないんだと思った。
マ「やめろって!壊すなって。だってパチンコ屋見つけた時なんも言わなかったじゃん。行かなくていいのかと思ったんだよ」
こいつの脳みそは白子か。ポン酢かけて食ってやろうか。
考えたら、いや、考えなくても分かるだろ。分からないなら聞けよ。
嫁入り前の女が走行中の車の後部座席でうんこしようとしてるんですけど。
あと、あんたの車なんですけど。
段差だらけの田舎道でノーミスでいける自信はない。私は体幹が弱い。
言いたいことは山ほどあるけど、怒りでお腹に力を入れると出そうだったので無言で外を見つめ続けた。変わることのない田園風景。ああ、さとうきび畑だったら今すぐ飛び込むのに。
青ざめていく私にようやく事の重大さに気付いたのか、マスオが車のスピードを上げた。
勝利のラーメン
マ「あそこのラーメン屋は?やってるか怪しいけど、車あるから人はいるんじゃない?トイレ貸してくれるか聞いてみようか?」
私「自分で聞いてくる」
マスオはウィンカーを出したが、信用出来ないのでハンドルを握ってラーメン屋の方に思いっきりきってやった。
長い戦いが終わりました。店員さんは快くトイレを貸してくれて、青ざめて目が虚ろな私に「大丈夫?」ってお水を出してくれました。車酔いだと思ったのかもしれない。
「下痢です」とは言えず、「はい、ありがとうございました。本当にたすかりました」と涙目でお礼してお店を出ました。
東北はいい人がいっぱいいるなー。いや、東北だけじゃない。日本人はすばらしい。
マ「全部出したかー?」
こいつ以外はな。
お腹はだいぶ良くなったけど、またいつ波がくるか分からないので「トイレと言ったら素直に応じること」「応じない場合は100万円」という小学生みたいな契約をして再び喜多方市へと向かい、無事に美味しいラーメンを頂くことが出来ました。
戦いの始まり
この一件以来
・長距離移動
・トイレのない場所での長時間滞在
・トイレに行けない状況
これらが怖くなってしまったのです。「もし急にトイレに行きたくなったらどうしよう」と考えるだけでこの一件を思い出してお腹が痛くなり、高確率で下痢します。
高速バスは乗れない、飛行機も安全ベルトを外すまでトイレに行けないから乗れない。
ゴルフも打ちっぱなしはいいけどラウンドは無理。海水浴、釣りなど自分のタイミングでいつでもトイレに行ける状況にいないと不安でお腹が痛くなっていまいます。
冒頭部分でも書きましたが、病院で診てもらったわけではないので過敏性腸症候群だとは言い切れません。でも、私の腸が精神状態に左右されているのは間違いないかと。
今はかなり改善されて旅行にも行けるようになりました。
何がきっかけで体が調子を崩すか分からないもんですね。一生付き合う体なので、今まで以上に気にかけて健康診断も毎年行こうと思います。
おしまい